石橋修復工事! 泉村小谷橋

石工の里「東陽村」に隣接し、平家の落人伝説で有名な「泉村」にも、多くの石橋が残っている。その中で、今では使われなくなった小さな石橋ではあるが、保存のための修復工事が行われた。その工事記録をここに。(資料提供:尾上様)
小谷(こたに)橋
八代郡泉村白木平

撮影:平成11年12月

工事概要 工事名 小谷橋修復工事
工事場所 八代郡泉村白木平 地内
契約日 平成 11 年 9 月 27 日
着工 平成 11 年 9 月 28 日
竣工 平成 11 年 12 月 20 日
発注者 泉村 村長 清水  弘 様
発注機関 泉村 建設課 様
監督者 泉村 建設課 吉田 参事 様
施工方法 本工事
  1. 脱落した輪石・隙間充填用の石材(素材)を矢部から該当数量分搬入しておく。
  2. アーチ下に三脚と道板で測定足場を作り、充填サイズを測定し、素材からの切り出し加工を現地で行う。 (充填用輪石の厚さは10cm程度とし、接着剤のみで固定する。)
  3. 開いていないアーチ内面の輪石と輪石の接点のすぐ横の一点を点付けで接着し、続いて嵩上げ部分より下部の壁石の接着を行う。極力、外部から見えないような場所を選んで接着する。
    注:「隣り合う輪石と輪石の接点のすぐ横の一点」とした理由
    将来、全復元を行う機会があった場合、現在の接点を接着す ると、解体時に接点部分の石面が剥がれることになり、石材 一個の有効厚さが小さくなる。仮に1cm剥がれると10個では 10cmの差が発生し、復元不能になる可能性が大きいため。   
  4. 左岸の嵩上げ部分は、私邸の石垣の補強として一部現状のまま使用するので、その部分も接着しておく。
  5. 混合した接着剤の使用可能時間内に処理できる石材の加工が 出来てから、順次はめ込みながら接着剤を点付けして板等で面を合わせ、木材等で川床から仮に支保を行う。
  6. 全ての隙間が充填接着できてから、4日間以上硬化養生を行う。(その間、支保工はそのまま放置するが壁石の接着用足場は突然の増水に備え撤去する。)
  7. 硬化養生が終わったのち、嵩上げされた壁石を人力で撤去する。撤去した壁石・中詰土は上流のコンクリート基礎(用途不明)内に 盛土処理する。
  8. 右岸の上下流の取付石垣は、安定勾配となる処まで撤去し、道路側も同じく安定勾配と思われる部分まで掘削しておく。
  9. 嵩上げ部の撤去(左岸の一部を除く)後、橋の表面を均し、山砂とセメントを5:1で混合したものを敷均し、足で踏みつけた程度の転圧を加えて仕上げる。左岸側は45度程度の勾配があるので、コテ等で整形して仕上げる。
  10. 周辺の清掃片づけをして完了。
写真管理  出来形測定を実施した場合、その確認を行う為に必要に応じて寸法を撮影して記録する。又各工種、各作業において施工状況を随時撮影する。予期できない工種が発生する可能性が多いので、変化があったその都度写真で記録をしておく。
環境対策
本工事現場で考えられる環境に影響を与える項目。
  1. 石加工時の騒音
  2. その他
その対策
  1. 夜間作業、祝祭日の騒音作業は行わない。 志賀商店に承諾を得る。
  2. 適法に対応する。
再生資源の利用の促進
A 現場発生の再生資源と考えられるもの。
  1. 撤去する壁石・土
  2. 伐開による「草・竹・小木」
 その利用促進対策
  1. 上流コンクリート基礎(用途不明)の中に投棄
  2. 雑草は集積して放置発酵させ、腐葉土として還元する。
B 搬入材料で再生資源と考えられるもの。
  なし。
その他
  1. この小谷橋は、泉村に存在する石橋の中では、最も古い年代に架橋されたものであるといわれ、その価値は今後徐々に解明されていくものと思われる。
    平成時代の修復が、後世に悪影響を及ぼさないように、できるかぎりの情報を得ながら、工事途中であっても改善できる工法は改善する。
  2. 工事中・竣工時においても、周囲の自然環境を必要以上に破壊しない細心の注意を払う。特に材料・仮設物・飲食物の残滓・破片などの投げ捨てを禁止し、整理清掃を心がける。
  3. 竣工検査前に現場周辺の清掃状況を再度確認し、部外者の捨てたものであってもゴミ芥は回収し、環境負荷を低減する。施工者が持ち込んだ材料クズなど(水糸のクズなども)は、残してはならない。

参考 本工事までの調査の経緯(事前情報の整理)

 平成11年7月1日午後2時より、泉村建設課・教育委員会立会いで現地調査を行った。 (輪石の一部が脱落し、崩壊の恐れがあるので調査を要する旨の問い合わせによる。)
 現状のまま放置して、もし橋が崩落した場合、隣接する民家の石垣の欠損及び崩落に繋がる。また、この石橋を文化財と考えるか、消耗財産と考えるかで、今後の取扱いが違うので、調査経過および結果資料に基づいて判断する事が最善であると考えられる。原因を確実に突き止めた上で修繕をしなければ余分な時間と費用を要し、最悪の場合見当違いの修繕をしてしまう恐れがある。充分な原因調査に基づき、最も有効かつ諸般の事情に即応した計画を行うものとする。また、この橋は種山石工集団の手による「肥後の石橋群」の一つであることがわかっている為、その歴史・文化・技術的な価値を疎かにするべきではないと考えられる。

現地調査 客観状況

  1. アーチの上流側から約1/3の位置で橋の縦断方向に最大10cm程度の亀裂が全周にわたり発生。アーチ中央部が最も顕著であり、数個の輪石が脱落。また、輪石単体に入った亀裂により割れた輪石の断片の崩落も散見。
  2. アーチの下流側から約1/5の位置で橋の縦断方向に最大2cm程度の亀裂が全周にわたり発生。輪石に隙間が発生しているものの、脱落には至っていない。
  3. 橋の路面及び橋体に中詰めしてあった土砂が、脱落した輪石部分から崩落して、空隙が貫通している。
  4. 上流側右岸の壁石が輪石と接する部分で約5cmズレ出ており、その上部に積み重なる壁石は更に上流側に孕んでいる。
  5. 下流側右岸の高さ1m程度の部分の輪石に亀裂及び剥落が見られる。
  6. 雑草等が繁茂しており、構造全体を調査する事が困難な上、調査段階では原因を特定できない為、目視による調査と簡単な検測を行った。
  7. 文献・既存資料等に記載されている諸数値(径間・拱矢など)がやや不一致。

客観状況 の解析及び所見

 上記1〜4について、橋体内部からの、何らかの原因による圧力が壁石を押し出し、輪石も伴って上下流側に変位した、と仮に想定して原因の究明を行い、原因として考えられる可能性事項を、以下に記す。

  1. 橋体内部の中詰め土が圧密沈下する性質を持ち、雨水の浸透により長期間にわたり沈下して内圧を発生した。
    ● 橋上は壁石の天端まで覆い土が現存するが、追加した事があるか?
    ● 端の上部の土を工事で入れ替えた、又は追加した事実はないか?
  2. 橋体内部の中詰め土に、植物の根が伸び、肥大して内圧が発生した。
    ● 橋上にこれまで草木が繁茂したことはあるか?(1年間だけでも)
    ● この橋のこれまでの維持管理状況は?
  3. その他の原因。
    ● 地元聞取り調査。(思いつくまま、箇条書きしてもらうほうが効率的)
<制作>熊本国府高等学校パソコン同好会

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