熊本の方言(熊本弁)

熊本弁四方山よもやま

言葉の違い(東西に比べ、南北のほうが大きい)
   県北と県南で、同じ意味を表す言葉が違っているのもあります。秋山正次・吉岡泰夫共著「暮らしに生きる熊本の方言」より幾つか紹介します。
共通語 県北方言 県南方言
暑い アツカ ヌッカ
生臭い ナマクサカ ヒエクサカ
(雷が)落ちる オチラス ツコケラス
(食事の)後片付けをする アトジマイスル ホソメル
トサカ(鶏冠) エボシ(烏帽子) カブト(甲)
ホウセンカ(鳳仙花) ツマグロ(爪黒) トビシャゴ
行かねばならない(義務) 行カニャナラン(行カニャン) 行カンバン
勉強をせよ(さ行変格命令形) 勉強バセー 勉強バセロ
雨が降っている(進行形) 雨ン降ットル(リヨル、チョル) 降リヨル、降リオル
 南北での言葉の違いは多いようです。ここに上げたのは一例です。今では死語に近いものも多い(上の例も私たちは使わないものも)ようですが、県南と県北でこれだけ異なる言葉が存在していたとは驚きました。もちろん南北といっても地域性もあり、一概には分けられないし、特に最近では微妙になっています。同じ県北でも阿蘇と玉名、県南でも芦北や球磨や天草でも違います。更には、同じ意味の言葉が違うだけでなく、同じ言葉が南北で違った意味になる例(「イサッカ」は県北では「多い」、県南では「元気がいい」意味)もあります。

熊本の大きな川は全て東から西に流れています 東西に比べて南北の方言の違いが大きいと言う事は、昔から人的交流は東西に比較して南北は希薄だったということでしょうか。熊本の場合、山(東部)と海(西部)、山の幸と海の幸などの物資移動など、南北に比べて東西の交流のほうが頻繁だったということでしょう。県内の川の大半(県内4大河川の菊池川、白川、緑川、球磨川)が東西に流れている事(川に平行して山が、山のほうが大きいかと)も、南北の交流の妨げの一つか。他県にも同じような例があるのでしょうか。
 もちろん最近では橋やトンネルができ、交流も活発となって、言葉の違いもなくなりつつあります。また、県内の言葉の交流に、高校の通学圏の拡大が大きく影響したとのこと、私たち高校生も方言の移り変わりに関わっているんですね。方言の収集、今となっては遅過ぎと言うこともあるかと。
 
 ところで,芦北・水俣方面で「小休止,休憩」という意味の方言があります。田浦で「タバンマン」とか「タバクマン」,湯浦では「タバッガイ」などと微妙に違っているようです。田浦と湯浦の間には佐敷太郎峠という難所があり,両地域の方言の違いとなったのでしょうか。この地域には三太郎峠と言って,他にも津奈木太郎峠や赤松太郎峠があり,八代,田浦,芦北,津奈木・水俣地域の方言に影響しているのではないかと思います。今ではそれぞれにトンネルが出来,簡単に往来できるようになり,言葉の違いもなくなりつつあるのかも知れません。しかし,三太郎峠と方言など,水俣・芦北地域の方言には興味深いものがあります。(2010/01/27)
 
あぎゃん、そぎゃん、こぎゃん、どぎゃん
 
「コラ、ドギャンスット?」
「ソギャンコツモ ワカラントナ」
「コギャンシテカル、コギャンスットヨカッタイ。ワカッタナ」
「・・・?!? イッチョン ワカランバイ」
「ソギャンセンデ、ギャンスット ヨカヨ」
「コギャンネ」
「ソウ、ソウ、ソギャンタイ、ソッデヨカツバイタ」

 「ギャン、ギャン、ギャン」面白いというより、県外の人には耳障(ざわ)りになるかも知れませんね。「アギャン、ソギャン、コギャン、ドギャン」とは、共通語では「あんなふうに、そんなふうに、こんなふうに、どんなふうに」というところです。これも熊本弁の特徴的な言い回しでしょうか。
 これに近いものに「アル、ソル、コル、ドル」もあります。「あれ、それ、これ、どれ」の意味です。「アータはドルがヨカナ?」とは「あなたはどれが良いですか?」であり、「あなたはドル($、米国の通貨単位)がいいか?」ではありません。「あ、そ、こ、ど」に量を表す「しこ」をつけた「アシコ」「ソシコ」「コシコ」「ドシコ」なども。
 
「わいふぃ、かもてぇ、やまぎゃ」(メールでの投稿)
 
 熊本弁は、丁寧語とも称されますが、反面短縮された言葉も多々ありますよね。私の地元菊池では上下関係の言葉選びは大変ですが、こんな略語の会話も普通になされていました。こんな会話がなされてもお若い皆さんも理解出来るのでは無いでしょうか。

質問 「あた、どこさんいきょんなはっですか?」 
    「あた、どこさんいきょっとな?」
    「あた、どけいきょんな?」
    「あた、どけいくとな?」

答え①「わいふぃ」
答え②「かもてぇ」
答え③「やまぎゃ」
答え④「やっちれ」

 どうですか?どれも使いませんか?「わいふぃ=わいふへ(菊池市内へ、菊池の中心部「隈府わいふ」)」「かもてぇ=鹿本へ」 「やまぎゃ=山鹿へ」 「やっちれ=八代へ」考えて見たら変ですが、実際の会話で普通に使っていたものです。(2004/10/13 Y様より)
 
「ない、に、の、も、る、れ、ろ」が「ん」に変る
 
 聞かない→聞か(見らん、言わん、しゃべらん)
 来ないなら→来なら 、 なもかも→なもか
 洗濯も→洗濯も(者、物、殿も「もん、もん、どん」に)
 あ人→あ人(「その」、「どの」も「そん、どん」に)
 何でかんで→何でかんで
 どこで→どこで 、 のぼすな→のぼす
 そなら→そなら 、 とこの→とこ

 「ん」が次々。「ん」が多いのも熊本弁の特徴ですね。まさに、ん(運)の付く、縁起が良い(?)方言です。このような撥音便はつおんびんを初めとする音便化(?)も熊本弁の特徴の一つでしょうか。他の例も幾つか示すと、
 落雁(らがん)→らがん、 飯(めし)は→めゃー、 い→い、 怪我すぞ→怪我すぞ、 じーちゃん→じいちゃん、 どこ行くと→どこさん行くと、 どこへ行くと→ど行くと・・・等々、たくさんあります。
 また、共通語では「犬がほゆる(ほえる)」と助詞「が」を使うところを「犬のほゆる」と「の」を使うのも特徴でしょうか。ちょっと考えただけでも、共通語との違いは多そうです。もっと調べれば、別ページとして独立できそうですね。専門的な文法や言語学的にまとめるのは難しそうだが、違いだけを並べるぐらいならできる(?)かな。(2004/10/20)
 
豊富な音(「や行」や「わ行」も)
   火事を「くぁじ」、外国を「ぐぁいこく」、先生を「しぇんしぇい」など、「か」をクァ、「が」をグァ、「せ」をシェと発音する場合もある。言葉によっては「か」と「くぁ」、「が」と「ぐぁ」、「せ」と「しぇ」などをはっきり区別して使用する事もある。他にも「お」を「を」、「え」を「いぇ」など「わ行」や「や行」が数多く残っている。熊本弁は共通語と比べて音も多様である。よって、外国語を覚えるのに都合がいいと言う人もいる。また「んもにゃ」など「ん(?)」で始まる語もある。

 しかし、欠点(?)としてアクセントがなく、「橋と箸」「雨と飴」「秋と飽き」の区別もないというか、区別できないのも熊本弁というか熊本人。抑揚(イントネーション)も少ない、これは隣県の鹿児島や宮崎の方言と大きく違うところでしょう。しかし、アクセントやイントネーションがないという点は、他の方言にスムーズに溶け込みやすいという利点(?)にもなっているようです。
 
標準語より発達した言葉!(メールでの投稿)
   熊本弁は標準語より発達した言葉だと思っています。(もちろん言葉の優劣の問題ではありませんが) 例えば、標準語の「~している」は、熊本弁だと「~しとる(しちょる)」「~しよる」の二つに分かれます。つまり標準語では完了形と進行形の区別がないのに対し、熊本弁では「とる」が完了、「よる」が進行と使い分けています。(最近はあまり使い分けられていなくなってきているようですが)熊本弁のほうが明示的である分、発達したものだといえると思います。(2007/05/05)
 「~しとる(しちょる)」が「have動詞+ 過去分詞」で、「~しよる」が「be動詞+ -ing」ということでしょうか。「雨ん降っとる」は、今は「雨が降り終わってる」で、「雨ん降りよる」は、ちょうど今「雨が降りつつある」となるのですが、最近では区別がなくなりつつあるようです。現在形だけでなく、過去や未来形の表現も可能なようです。熊本弁は何と表現豊かな言葉でしょうか。しかし、最近は「~しとる(しちょる)」「~しよる」の使い分けがなくなりつつあるというのは残念な気もします。言葉がその時々に従って変化していくのはしかたないことですが・・・。
 
「アトゼキ」を全国に!(みんなで取り組もう、温暖化防止)
  「あとぜき」の張り紙 アトゼキとは、熊本弁で「出入りのために開けたドアを最後にちゃんと閉めること」を意味します。「後塞き」とか「後堰き」と書くのでしょうか。暖房や冷房を効かせた部屋のドアを開けっ放しに出て行った時など、「開けたドアはキチンと閉めなさい!」などと、まどろっこしい言葉は必要ありません。「アトゼキ!」の一言で伝わるのが熊本です。実に便利な言葉、日本中に広めたい熊本弁の一つです。川をせき止める「堰く」の名詞形「堰き」から転じたものかと思われます。「アトゼキ」を共通語だと信じきっている熊本人は多いのですが、全国的にはほとんど知られていない熊本弁かも知れません。
 冷暖房のシーズンには、「あとぜき!」という張り紙、学校や会社など熊本の至るところで見かけます。あとぜきを徹底すれば冷暖房のための電気使用量が減り、発生する二酸化炭素(CO2)が削減されます。電気代節約と二酸化炭素排出削減の一挙両得、「あとぜき」の効果は大です。「アトゼキ徹底で、地球温暖化防止!」いつでも、どこでも、誰でもが、簡単にできる温暖化対策!全国に広めたいものです。ATOZEKI!って国際語(?)にならないかな・・・。
ここの「アトゼキ」は昨年から発信していたのですが、ささやかながらも「地球温暖化防止活動に貢献できないか」と、2008年正月より1年ほど、ホームページで「あとぜき・・・」キャンペーンも!
 
「アトゼキ」のしつけ言葉!(メールでの投稿)
  あとぜき!熊本弁(四方山) 楽しく読ませてもらいました
そこで思い出したこと 「アトゼキ」について 私が小学1~3年生の頃 大正から昭和10年代に女学校の元女先生に教えられた アトゼキのしつけ言葉 (「じょうスラリ! ちゅうはピッタリ! は2寸! 下の下なればアトゼキもせず!」といいますもん ああたも通ったあと ちゃーと しめにゃんヨ)というものです スラリは音も無く隙間すきま無く閉まった状態で ピッタリは音はしたが兎に角とにかく隙間は無かった 2寸はガチャンと閉めて後戻りしたか 届かなくて2寸ほどの隙間が有った状態でふすまなど引き戸を 後ろ手で閉めるとよくありました
子供の頃父親に「スースーすった! ちゃんとアトゼキせんか!」と叱られた思い出と共に 終り
(南阿蘇生まれ育ちで古希を迎えた老青年より) (2008/02/27)
 おばあさんにこの話をしたら「とってもいい言葉だね」、おばあさんも子供の頃、おばあさんのお父さんから「っつ三寸さんずん 下々げげっつは開けたそのまま!」と、アトゼキを注意されたとのこと。アトゼキって、昔から大切なマナーだったんですね。
 
カラウやハワクって、方言だったの?
  「リュックをからう(リュックを背負う)」「庭をはわく(庭を掃く)」「自転車をなおす(自転車をかたづける)」「授業があっている(授業が行われている)」の「からう、はわく、なおす、あっている」が方言だということに気づかずに使っている熊本人は意外と多いようです。熊本にたっぷりと浸かっていれば、共通語なのか方言なのか区別がつかないのも当然だと思いませんか。「カローチ行く」は方言だけど、「からって行く」は共通語かと思ってました。他に「授業がアットル」は方言だが、「授業があっている」は共通語だとも。「掃く」と書いてあれば「はわく」と読む人も多い(実は私も!)ようです。国語の先生、漢字の読み仮名テストで「はわく」も「」なんていうのは無理なのかな・・・
 
熊本市のキャンペーンに「熊本弁」!
  「いつ帰ってくると?待ちなんか」「まあだかいた,帰ってくっとは,いつかいた。」「何人でちゃよか,遊びに来なっせ,うちに泊まんなっせ。」「忙しかのすってんの言わんで,遊びに来なっせ!」「いっぺん帰って来なっせ。顔ば見せなっせ。」「そぎゃん,でくるもんな。遊びにこにゃ。」「たまにゃ,熊本さん,遊びに来てはいよ。」「どぎゃんしてでん,会おごたる」「遊びにきなっせ!飲もばいた!」等々,熊本弁を使った12種類の年賀状デザインが登場!熊本市の「くまもとを訪れる人を増やすキャンペーン」の年賀状編だそうです。熊本弁で帰省客や観光客を呼び込む作戦です。熊本弁の活用例です。ところで,この葉書デザインの画像ファイルは「わくわく都市くまもと」からダウンロードできます,年賀状などに利用してみませんか。(2009/12/19)
 

 本ページより「笑い話(?)」(2004/10/14)や「熊本弁に誇りを!」(2009/02/18)が別ページとして独立。今後も、皆さまからの投稿や情報提供を歓迎します。

制作:熊本国府高等学校PC同好会(最終更新:2010/02/18)

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