熊本文学散歩


碑文の和訳

 熊本大学にあるLafcadio Hearn(小泉八雲)記念碑文の出典元である「極東の将来(THE FUTURE OF THE FAR EAST)」と題する講演の終わりの部分からの引用です。英文と共に日本語訳を紹介します。訳者は桃井恵一先生と桃井祐一先生との共訳です。


"THE FUTURE OF THE FAR EAST"(Part of the end)

 I believe also that the future is for the Far East, ――not for the Far West. At least I believe so as far as China is concerned. In the case of Japan, I think, there is a possible danger, ――the danger of abandoning the old, simple, healthy, natural, sober, honest way of living. I think Japan will be strong as long as she preserves her simplicity. I think she will become weak if she adopts imported ideas of luxury. The wise men of the Far East, ――Confucius and Mencius and the Founder of the Buddhist faith, ――have one and all preached the importance to national strength and happiness, of avoiding luxury and of being content with what is necessary for common comfort and for intellectual enjoyment. Their ideas are also those of the Western thinkers of today.

 ――Well, in making these remarks to you, ――representing not merely my own ideas, but those of wiser and better men than I can ever be, ――I thought of what has been called the Kyushu Spirit. I have heard that simplicity of manners and honesty of life were from ancient time the virtues of Kumamoto. If this be so, then I would conclude by saying that I think the future greatness of Japan will depend on the preservation of that Kyushu or Kumamoto spirit, ――the love of what is plain and good and simple, and the hatred of useless luxury and extravagance in life.


「極東の将来」(終わり部分)

 また、将来は西洋にではなく極東に味方すると私は信じる。少なくとも中国に関する限りそうだと信じる。日本の場合には、危険性があると考える。古来からの、簡素な、健全な、自然な、節度ある、誠実な生活方法を捨て去る危険性がある。私は日本がその質素さを保ち続ける間は強いが、もし舶来のぜいたく志向を取り入れるとすれば衰退して行くと考える。極東の賢人である孔子、孟子、ブッダは誰も皆、「ぜいたくを避けて、ごく普通の楽しみと知的娯楽に必要なもので満足することこそ、民の強さと幸せのために重要である」と説いた。その考えはまた今日の西洋の思想家の考えでもある。

 さて、諸君にこんなこと――単に私自身の考えだけでなく、私のとうてい及ばない聖賢たちの考え――を述べているうちに、私は「九州魂」といわれているものについて考えてみた。私は質素な習慣と誠実な生活は古来熊本の美徳であったと聞いている。もしそうであるなら、将来、日本が偉大な国になるかどうかは、――九州魂あるいは熊本魂、――すなわち 素朴、善良、質素なものを愛して、生活での無用なぜいたくと浪費を嫌悪する心を、いかにして持ち続けるかどうかにかかっているのだと申し上げ、結論にしたい。

2000.12 改訳


 以上、桃井祐一先生、桃井恵一先生が共同で翻訳されたものです。両先生は"THE FUTURE OF THE FAR EAST"の全文を翻訳されております。記念碑の碑文の意味を理解するために、その終わりの部分を紹介しました。当時の学生たちも忘れかけていたのでしょうか、素朴・善良・質素という古来からの美徳精神の復活をハーンは強く訴えたかったのでしょう。1世紀以上も昔ではなく、現在の日本について述べている内容かとも受けとれます。バブル景気の時期に聞きたかったと言われた方がいましたが、今からでも遅くはない内容だと思います。下記のように、「極東の将来」の原文と訳文の全文もあります。

『極東の将来』 はじめに 『極東の将来』 日本語訳 THE FUTURE OF THE FAR EAST 原文

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