熊本文学散歩


 

種田 山頭火たねだ さんとうかの俳句

 山頭火はその生涯で、8万句以上の俳句を詠んだといわれています。その大半は知りません。ほんの一部(1000句ほど)の中から好きな句を勝手に選んでみました。皆さんがお好きな句も入っているでしょうか。

 
1 あざみあざやかな朝の雨あがり
2 あすはかへらうさくらちるちってくる
3 あたたかい白い飯が在る
4 あの雲がおとした雨にぬれている
5 あるがまま雑草として芽をふく
6 あるけばカッコウ急げばカッコウ
7 あるけばキンポウゲ座ればキンポウゲ
8 いさましくもかなしくも白い函
9 いそいでもどるカナカナカナ
10 いつでも死ねる草が咲いたり実つたり
11 いつも一人で赤とんぼ
12 うしろすがたのしぐれてゆくか
13 うどん供へて母よわたくしもいただきまする
14 うらうらほろほろ花がちる
15 うれしいこともかなしいことも草しげる
16 お寺の竹の子竹になつた
17 からだぽりぽりいて旅人
18 けふはここまでの草鞋わらじをぬぐ
19 けふはふきをつみ蕗をたべ
20 けふもいちにち風をあるいてきた
21 ここまでを来し水飲んで去る
22 こころすなほに御飯がふいた
23 ごろりと草にふんどしかわいた
24 ころり寝ころべば青空
25 こんなにうまい水があふれてゐる
26 さてどちらへ行かう風がふく
27 しぐるるやしぐるる山へ歩み入る
28 しみじみ食べる飯ばかりの飯である
29 すすきのひかりさえぎるものなし
30 すべってころんで山がひっそり
31 だまって今日のわらじ
32 ちんぽこもおそそもいてあふれる湯
33 ついてくる犬よおまへも宿なしか
34 つかれた脚へとんぼとまつた
35 つくつくぼうしあまりにちかくつくつくぼうし
36 てふてふひらひらいらかをこえた
37 どうしようもない私が歩いてゐる
38 どこからともなく雲が出て来て秋の雲
39 なければないでさくら咲きさくら散る
40 ぬれててふてふどこへゆく
41 はだかで話がはづみます
42 ひとりひっそり竹の子竹になる
43 ふくろうはふくろうで私は私で眠れない
44 ふまれてたんぽぽ開いてたんぽぽ
45 ふるさとの水をのみ水をあび
46 へそが汗ためてゐる
47 ほととぎすあすはあの山こえて行かう
48 また逢へた山茶花さざんかも咲いてゐる
49 また見ることもない山が遠ざかる
50 まっすぐな道でさみしい
51 もりもり盛りあがる雲へあゆむ
52 わがままきままな旅の雨にはぬれてゆく
53 わかれてきた道がまっすぐ
54 安か安か寒か寒か雪雪
55 庵主はお留守の木魚をたたく
56 案山子かかしもがっちり日の丸ふってゐる
57 一りん咲けばまた一りんのお正月
58 雨ふるふるさとははだしであるく
59 雨ふればふるほどに石蕗つわぶきの花
60 何が何やらみんな咲いている
61 干せば乾けばふんどししめてまた歩く
62 空襲警報るゐるゐとして柿赤し
63 月夜あかるい舟がありその中で寝る
64 行き暮れてなんとここらの水のうまさは
65 咲いて一りんほんに一りん
66 山あれば山を観る
67 山ふかく(ふき)のとうなら咲いてゐる
68 山ふところのことしもここにりんだうの花
69 産んだまま死んでゐるかよかまきりよ
70 酒はない月しみじみ観てをり
71 住みなれてやぶ椿いつまでも咲き
72 春が来たいちはやく虫がやって来た
73 春の山からころころ石ころ
74 初孫がうまれたさうな風鈴ふうりんの鳴る
75 松かぜ松かげ寝ころんで
76 松はみな枝垂(えだた)れて南無観世音なむかんぜおん
77 松風に明け暮れの鐘撞(かねつ)いて
78 焼き捨てて日記の灰のこれだけか
79 伸ばせば伸びるひげはごましほ
80 寝ころべば枯草の春にお
81 水もころころ山から海へ
82 酔うてこおろぎといっしよに寝ていたよ
83 酔ざめの風のかなしく吹きぬける
84 正月三日お寺の方へぶらぶら歩く
85 生きてしづかな寒鮒もろた
86 洗へば大根いよいよ白し
87 ぜにがない物がない歯がない一人
88 窓あけて窓いつぱいの春
89 朝からはだかでとんぼがとまる
90 朝は晴れ夕べはくもる旅から旅へ
91 朝は涼しい茗荷みょうがの子
92 鉄鉢の中へもあられ
93 冬がまた来てまた歯がぬけることも
94 南無観世音なむかんぜおんおん手したたる水の一すぢ
95 梅干あざやかな飯粒ひかる
96 飛んでいっぴき赤蛙
97 百合ゆり咲けばお地蔵さまにも百合の花
98 百舌鳥もずいて身の捨てどころなし
99 分け入っても分け入っても青い山
100 歩くほかない草の実つけてもどるほかない
101 暮れても宿がない百舌鳥もず
102 鳴いても山羊やぎつながれてひとり
103 夕立やお地蔵さんわたしもずぶぬれ
104 落葉しいて寝るよりほかなく山のうつくしさ
105 曼珠沙華まんじゅしゃげ咲いてここが私の寝るところ
106 やぶからなべたけのこいっぽん
107 からすいてわたしも一人
 

 形式にとらわれない、まさに普段着(ふだんぎ)の言葉の連続。五七五でなく、ただ浮かんだ言葉を並べただけのようにも。ふと、誰にでも簡単に作れそうと思ってしまいます。自分にも作れそうと、そんな雰囲気(ふんいき)にさせるところが、山頭火の山頭火たる所以ゆえんなのでしょう。「俳句って特別な人が作るものではないんだよ、誰でも自由に作って楽しめばいいんですよ!だから沢山作りました。皆さんもどうぞ!」そんな山頭火さんの声が聞こえてきそうです。
 資料によって「漢字」だったり「ひらがな」だったり、どっちが本当なのか分からない句もありました。私たちの間違いや勘違いもあるかと思います。お気付きの点等、お教えいただけば助かります。2007/07/29

<制作>熊本国府高等学校パソコン同好会

 
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