暇つぶしに
数学(?)に挑戦しよう!


今回は「暦(こよみ)」がテーマです,数学に関係あるのかな?
熊本文学散歩等で,年号や年表に関わるうち
暦に興味をいだいてしまいました。
 


<暦(こよみ):365.242194・・・との関わり>

 1日は24時間(厳密に言えば1000年で約0.01秒長くなっている)だから問題ないが,1年(太陽年)は365.2422日(実際の値は365.242194・・・と続くばかりか,時とともに微妙に変化している)と半端な数で,1年を何日とするかは大問題である。そのために,暦はいろいろ改良され変更されてきたのである。

<エジプト暦>

日の出前のシリウス
注:この図のシリウスと太陽の大きさ・位置・方角は適当に描いたもので正確なものではない。

 今私たちが使っている暦「グレゴリオ暦」の元となったのが「ユリウス暦」で,ユリウス暦は古代エジプトで使用されていた太陽暦を手本としている。古代エジプトで太陽暦が考案されたのは,ナイル川の洪水を予測する必要があったからである。ナイル川は長い川(6690km)で,上流に降った雨で下流のエジプトが洪水になるのは何ヵ月も後。そのため,エジプトがカンカン照りでも,ナイルの水は溢れ出し大洪水となる。洪水予測のためにも季節を正確に表わす暦が必要だった。BC3000年頃,「天体で最も明るい恒星 シリウスが日の出前に東の空に現れると,決まったようにナイルが氾濫する」ことに気付き,太陽暦が考案されたようだ。ナイルの氾濫を予測するための暦である。当時の1年は365日(30日×12ヶ月+5日)である。当時のエジプト人も,シリウス出現日が毎年ずれていく事から,4年で1日のずれがあることに気付いてはいた(そのため,プトレマイオス3世が改暦を試みたこともある。シリウス出現日がおよそ1460年で1年365日の暦日を一巡することがパピルスにも記録されている)が,宗教上の理由からエジプトでは改暦するまでには至らなかったようだ。(ところで,太陽年は365.242194・・・日だから1年で約0.242194日のずれが生じるので,実際には1507年で一巡する)

 「エジプトはナイルの賜物(たまもの)」,ナイルの洪水予測や洪水後の復旧等のため,天文学(暦)や数学(測量)などの実務的な自然科学が発達した。こうしたエジプトの学問が,ターレス(三角形の合同や日食の予言)やピタゴラス(三平方の定理)等に大きな影響を与え,ギリシャで体系的な学問として花開き,その後の数学の発展に大きな貢献をしたことは周知の通り。

<ユリウス暦>

 ユリウス暦はBC46年,ユリウス・カエサル(ローマ帝国のジュリアス・シーザー)によって制定された。1年を365日,4年に1回閏(うるう)年(1年を366日)とした。よって,ユリウス暦の1年は365.25日<(365×3+366)÷4>。実際の1年(太陽年)は365.2422日だから,0.0078日(365.25−365.2422)=11分14秒 だけ長くなる。1年では高々11分14秒だが,128年(1÷0.0078)で1日,1282年で10日もずれてくる。このずれが累積した結果,16世紀には実際の春分の日は3月11日に!AD325年のニケア宗教会議で3月21日と決められた春分の日が,実際の春分とかけ離れてきた。キリスト教最大のお祭り「復活祭(イースター)」は「春分の後の最初の満月からすぐの日曜日」とされていたが,正しい春分の日を基準としては祝えなくなってきたのだ。

<グレゴリオ暦>

 そこで,ローマ法王グレゴリオ13世が1582年に改暦を実行。ユリウス暦1582年10月5日を,グレゴリオ暦「10月15日」(閏年を入れ忘れた年もあって,1600年で10日のずれが生じていた)とした。グレゴリオ暦は「平年は365日,西暦年が4で割り切れる年は閏年で366日。ただし,西暦が100で割り切れるが400で割り切れない年は平年」という暦である。即ち,ユリウス暦では400年に100回の閏年だったのが,3回少なくして97回にしたのがグレゴリオ暦である。
 グレゴリオ暦の1年は (365×300+366×100−3)÷400 より 365.2425日,実際の太陽年より 0.0003日(365.2425−365.2422)(=25.92秒)だけ長い。グレゴリオ暦のずれは,約3300年(1÷0.0003)で1日。グレゴリオ暦は制定以来一度も修正する必要はなかった。しかし,50世紀までには1日の修正があるはず。「西暦何年の閏年を削除するのか?」気が遠くなる未来の話だが,興味深い問題である。

 イタリア,スペイン,ポルトガルなどのカトリック諸国では,グレゴリオ13世の勅書通り,1582年10月15日に改暦を実施したが,プロテスタントや他の宗教諸国での採用は遅れた。
 イギリスとその植民地でグレゴリオ暦に改暦されたのは1752年。9月2日の翌日を9月14日とした。その名残がUNIXシステムに残っている。UNIXの cal コマンドを使って1752年9月の暦を出力した結果を右に示す。3日から13日までがなくなっているのが解る。UNIXでの改暦が1582年10月ではなく,1752年9月となっているのは,UNIXがアメリカで誕生したのだから仕方ないか。しかし,興味深い事実ですね。(この出力例は本校のLINUXマシンを使用)
  [izumi ]$ cal 9 1752
September 1752
  Su Mo Tu We Th Fr Sa
1 2 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

<太陰暦>

 太陽暦のほかに,月の満ち欠けを基準とする「太陰暦」も,中国やメソポタミアをはじめ世界各地で使われていた。太陰暦は新月(闇夜)の日を,その月の1日(朔日 ついたち,月立が語源)として日付を数える。月の満ち欠けで日が解る便利な暦である。月の満ち欠けは約29.5日(正確には,平均 29.530589・・・日),そこで29日と30日の月がほぼ交互にやってくる。1年を12ヶ月とすると,およそ354日,太陽年より11日ほど短くなる。何年かすれば,実際の季節と暦が合わなくなり,農作業をはじめ生活上不都合を生じる。
 そこで2〜3年に1度,「閏月」をつくり,1年を13ヶ月とする年(閏年)を設けた。これを太陰太陽暦(旧暦)という。地球が太陽の周りを一周する公転周期(太陽年)と月が地球を一周する周期(朔望月)の融合をはかった暦である。何千年もの昔から様々な試みがなされ,いろんな暦が作られてきた。しかし,地球の公転周期と月の周期の比(365.242194・・・:29.530589・・・)を考えれば,完全に季節のずれをなくした太陰太陽暦を作ることは難しいようだ。

明治6年に実施された改暦のエピソード
 日本では明治5年12月2日まで太陰太陽暦(旧暦)を使用していた。明治5年11月9日の「太政官布告」により,太陽暦に改暦され,「明治5年12月2日」の翌日が 「明治6年1月1日」となりました。この改暦には興味深いエピソードが残っています。世界各国と共通な暦を使うというたてまえの裏に,政府の財政難を救うというもう一つの理由が隠されていたとも。明治6年は旧暦の閏年(6月の後に「閏6月」が入る)にあたり,1年が13ヶ月だったので,政府の人件費圧縮のためだったとのこと。江戸時代は年俸制だから旧暦でも問題なかったが,明治になって月給制に変って生じた問題。当然,2日しかなかった明治5年12月の給料も支払われなかった。明治政府とすれば一石二鳥か。しかし,布告から3週間足らずでの実施なんて,今なら考えられない英断(?)。不況日本,その対応で悩む小泉首相も見習う点は?!
 ところで,太政官布告で太陽暦(グレゴリオ暦)に改暦したのだが,ユリウス暦と混同した部分(4年に1回の閏年と考え,1900年を閏年と考えていた)があり,完全なグレゴリオ暦が採用されたのは,明治31年5月11日。諸外国で1900年(明治33年)が閏年でないことに驚き,あわてて決定したのでしょうか。明治維新のあわただしさというか,当時の混乱ぶりが分かりますね。
 なお,世界各国の改暦の際にも,様々な問題(家賃や給料は?)が起きたそうで,中には暴動まで起きたところもあるそうです。暦を変えるということは大変なことなんですね。

<理想的な暦は?>

 グレゴリオ暦も,「閏年の存在,月ごとの日数の違い,日付と曜日や月と週の関係等々」と,合理性に欠ける面が多い。改善の余地は大いにありそうだ。完璧な暦の出現は無理なのか。古代エジプト暦の1年は「30日×12ヶ月+5日」のほうが,逆に合理的かと思える。1週間を5日か6日に,30×12日以外の太陽年との差で生じる「5〜6」日は,1年の初めと終わりを祝う「特別祝日」とする。一週間も5日または6日にすれば(5×6=30),毎月の日付と曜日も一致するし,毎年同じ日付は同じ曜日になるのに・・・。こんな疑問を持つ人も多いのでは。国連等で決定できないのでしょうか!
 しかし「不合理だからこそ面白くていいんだ!」という考え方もあるかとも思います。毎年の日付と曜日が固定してしまえば,本サイトの「曜日の求め方」というようなページも不要,楽しみが少なくなるという意見も!?

 熊本文学散歩で年表作りに関わる中,和暦から暦へと興味が膨れ,本ページを作成することに。暦も複雑で奥が深いものですね。歴史,天文,宗教,民俗などとの関連もあり,興味の輪が次々と膨らんでいきそうです。暦はクイズや数学の問題にもよく出題されます。カレンダーの数字を使った数当てゲームなども面白そうです。更には問題を解くだけでなく,問題を作るのも楽しいのでは,挑戦してみましょう!

作成:2002/2/10 最終更新:2005/12/19


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