熊本文学散歩


夏目漱石の俳句「100句」

 漱石の俳句から、100句を選んでみました。熊本時代に大半の俳句(漱石の全俳句約2400句のうち約1000句が熊本時代)を詠んでいるようですが、ここに紹介したものが熊本時代のものとは限りません。漱石の俳句の中から勝手に選んだものです。これよりあっちが良いとか、判断は難しいですね。俳句としての良い悪いでなく、全くの好みです。更に、漱石の俳句を全て知っている訳でもありません。今後新たな句を知って、入れ替えることも。また、好き嫌いはあくまでも個人感覚です。「人気100句」を選んでみませんか!希望される方は、100句に選んで欲しい俳句と、ここから削除してよいと思う俳句を一緒にお知らせください。勝手に選ぼう漱石100句!(熊本国府高校PC同好会)

1 秋の山南を向いて寺二つ
2 秋の日のつれなく見えし別かな
3 秋はふみ吾(われ)に天下の志
4 秋風の一人を吹くや海の上
5 秋風や唐紅の咽喉仏(のどぼとけ)
6 秋立つや一巻の書の読み残し
7 赤き日の海に落ち込む暑さかな
8 朝顔や咲いた許(ばか)りの命哉(いのちかな)
9 天草の後ろに寒き入日かな
10 いかめしき門を這入れば蕎麦(そば)の花
11 一里行けば一里吹くなり稲の風
12 稲妻や折々見ゆる滝の底
13 生きて仰ぐ空の高さよ赤蜻蛉(あかとんぼ)
14 うつむいて膝(ひざ)にだきつく寒さ哉
15 梅の奥に誰やら住んで幽(かす)かな灯
16 え(ゑ)いやつと蝿叩(はえたた)きけり書生部屋
17 温泉や水滑かに去年(こぞ)の垢(あか)
18 思う事只一筋に乙鳥かな
19 親方と呼びかけられし毛布(けっと)哉
20 落ちて来て露になるげな天の川
21 傘を菊にさしたる新屋敷
22 かしこまる膝のあたりやそぞろ寒
23 上江津や青き水菜に白き蝶
24 かんてらや師走の宿に寝つかれず
25 化学とは花火を造る術(わざ)ならん
26 肩に来て人なつかしや赤蜻蛉(あかとんぼ)
27 枯野原(かれのはら)汽車に化けたる狸(たぬき)あり
28 切口の白き芭蕉に氷りつく
29 雲来たり雲去る瀑の紅葉かな
30 草山に馬放ちけり秋の空
31 愚陀仏(ぐだぶつ)は主人の名なり冬籠(ふゆごもり)
32 衣替えて京より嫁を貰いけり
33 凩(こがらし)に裸で御はす仁王哉
34 凩(こがらし)や真赤になって仁王尊
35 午砲(ごほう)打つ地城の上や雲の峰
36 三十六峰我も我もと時雨けり
37 颯(さっ)と打つ夜網の音や春の川
38 しめ縄や春の水沸く水前寺
39 詩を書かん君墨(すみ)を磨(す)れ今朝の春
40 時雨(しぐ)るるは平家につらし五家荘
41 すずしさや裏は鉦(かね)うつ光琳寺
42 菫(すみれ)程な小さき人に生れたし
43 其許(そこもと)は案山子(かかし)に似たる和尚哉(おしょうかな)
44 反(そり)橋の小さく見ゆる芙蓉(ふよう)かな
45 某(それがし)は案山子(かかし)にて候(そうろ)雀(すずめ)どの
46 たたかれて昼の蚊を吐く木魚哉
47 ただ一羽来る夜ありけり月の雁(かり)
48 手向(たむ)くべき線香もなくて暮の秋
49 大慈寺(だいじじ)の山門長き青田かな
50 駄馬(だば)つづく阿蘇街道の若葉かな
51 達磨(だるま)忌や達磨に似たる顔は誰
52 月に行く漱石妻を忘れたり
53 弦音(つるおと)にほとりと落ちる椿かな
54 寺町や土塀の隙の木瓜(ぼけ)の花
55 唐黍(とうきび)を干すや谷間の一軒家
56 灯を消せば涼しき星や窓に入る
57 蜻蛉(とんぼう)の夢や幾度杭の先
58 どっしりと尻を据えたる南瓜(なんか)かな
59 堂守に菊乞ひ得たる小銭かな
60 なき母の湯婆(ゆたんぽ)やさめて十二年
61 永き日や欠伸(あくび)うつして別れ行く
62 永き日を太鼓打つ手のゆるむ也
63 何となく寒いと我は思ふのみ
64 菜の花の遥(はる)かに黄なり筑後川
65 菜の花を通り抜ければ城下かな
66 鳴きもせでぐさと刺す蚊や田原坂(たばるざか)
67 寝てくらす人もありけり夢の世に
68 能もなき教師とならんあら涼し
69 野菊一輪手帳の中に挟(はさ)みけり
70 灰に濡(ぬ)れて立つや薄(すすき)と萩のなか
71 春の雨鍋(なべ)と釜(かま)とを運びけり
72 春の水岩を抱いて流れけり
73 春雨や寝ながら横に梅を見る
74 梁(はり)上の君子と語る夜寒かな
75 雛(ひな)に似た夫婦もあらん初桜
76 瓢箪(ひょうたん)は鳴るか鳴らぬか秋の風
77 河豚(ふぐ)汁や死んだ夢見る夜もあり
78 降りやんで蜜柑(みかん)まだらに雪の船
79 仏壇に尻を向けたる団扇(うちわ)かな
80 弁慶に五条の月の寒さ哉
81 時鳥(ほととぎす)厠(かはや)半ばに出かねたり
82 煩悩(ぼんのう)は百八減って今朝の春
83 木瓜(ぼけ)咲くや漱石拙(せつ)を守るべく
84 曼珠沙華(まんじゅしゃげ)あつけらかんと道の端
85 耳の穴掘って貰(もら)いぬ春の風
86 水攻の城落ちんとす五月雨
87 無人島の天子とならば涼しかろ
88 名月や十三円の家に住む
89 名月や無筆なれども酒は呑(の)む
90 木蓮(もくれん)の花ばかりなる空を見る
91 木蓮に夢のやうなる小雨哉
92 餅を切る包丁鈍し古暦
93 安々と海鼠(なまこ)の如き子を生めり
94 ゆく春や振分髪も肩過ぎぬ
95 行く年や猫うずくまる膝の上
96 行く年や膝(ひざ)と膝とをつき合せ
97 行けど萩(はぎ)行けど薄(すすき)の原広し
98 寄り添えば冷たき瀬戸の火鉢かな
99 我に許せ元旦なれば朝寝坊
100 湧くからに流るるからに春の水
 
要望をいただき、2句を入れ替えました 更新:2009/02/16
 
 
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