同率の利益と損失
江津商事㈱にはA,Bの2事業部があり,昨年の売上高は,2事業部とも24億円でした。事業部ごとの経費と売上高を比較すると,A事業部は20%の利益(黒字)だが,B事業部は20%の損失(赤字)を計上しました。この場合,各事業部の売上高とその利益と損失の率が同じ,よって江津産業㈱全体としては儲けも損もなく「収支はトントン」と考えていいのでしょうか?
利益や損失の20%という率(割合)は売上高に対するものではなく,「経費(原価)」に対するものであることに注意しなければなりません。「経費×率=売上高」なのです。
A事業部で20%の利益(黒字)があったと言うことは,売上高24億円は経費の「1+0.2」倍と言うこと,経費をx億円とすると
x×1.2=24 よって x=24÷1,2=20 即ち A事業部の利益は 24-20=4で 4億円
ところが,B事業部では20%の損失(赤字)があったので,売上高24億円は経費の「1ー0.2」倍だから,経費をx億円とすると
x×0.8=24 よって x=24÷0.8=30 即ち B事業部の損失は 30-24=6で 6億円
A事業部の黒字4億円とB事業部の赤字6億円で,差し引き2億円の赤字となります。
「率(割合)」には必ず「基準となる量」があり,この場合「基準となる量」が「売上高」ではなく,「経費」であることに注意しなければなりません。
平均伸び率
江津商事㈱の売上高の伸び率を調べてみました。一昨年が20%,昨年が10%の増加だったとします。この場合,この2年間の平均伸び率は
(20+10)÷2=15 で,15%でいいのでしょうか?
正しいかどうか,具体的な数値を使って確かめてみましょう。
3年前の売上高を50億円とすると
一昨年の売上高は 50×1.2=60
昨年の売上高は 60×1.1=66(億円) となります。
ところが,2年続けて15%ずつ増加したとして計算すると
一昨年の売上高は 50×1.15=57.5
昨年の売上高は 57.5×1.15=66.125(億円)
となって,実際の売上高と比べて1250万円の誤差が生じます。
それでは,このような場合の伸び率の平均はどう計算したらいいのでしょうか?
3年前の売上高をA円,平均伸び率をxとして計算してみます。
一昨年の売上高は A×x=Ax
昨年の売上高は Ax×x=Ax2
一昨年が20%,昨年が10%の伸び率だったので昨年の売上高は A×1.2×1.1=1.32A
よって Ax2=1.32A だから x2=1.32
よって x=√1.32=1.1489125293・・・ となります。
よって,平均伸び率は 約0.149 即ち 約14.9%ということに。
伸び率の基本となる「1」の量が違う(3年前と一昨年)ので,足して2で割る平均では駄目です。ちなみに,平均には,足してn(足したデータの数)で割る「相加平均」以外に,掛けてn乗根を求める「相乗平均(幾何平均とも)」があります。単に「平均」と言うときは、相加平均です。このほかにも、往復の平均速度を求めるときなどに使う「調和平均」も。この3つの平均には,「相加平均≧相乗平均≧調和平均」
という関係が成り立ちます。
ビジネスの世界では,率(割合)のオンパレード。利益率,達成率,伸び率(成長率)以外にも,稼働率,利用率,分配率,成長率,上昇率,減少率,利率,回転率等々。何に対する比率なのか,数値に勘違いがないように,基本となる量に注意しなければなりません。「率を制するものはビジネス界を制する!」と言っても過言ではないかも知れません。ビジネスとは商売,商売の「商」は割り算の答え「商」,割り算は四則演算のなかで最も難しい計算,割り算が出来る人,すなわち計算の達人を「商人」と呼ぶのかも知れません。憶測も混じりましたが,数計算とビジネス,密接な関係にあることは間違いないでしょう。
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