百武彗星 (C/1996B2)
百武彗星と北斗七星

 1996年3月、まさに「彗星の如く」百武彗星(正式名:第二百武彗星[1996B2])が現れました。この彗星は同年1月31日に発見され、当初は望遠鏡を使ってようやく見える程度でしかなかったのですが、その後猛スピードで地球に大接近し、かのハレー彗星をもしのぐ440年ぶりの巨大彗星と化しました。地球に最接近したのは同年3月25日。最接近時の彗星までの距離は、わずか約1530万q(月までの40倍の距離)で、彗星史上かつてないほどの大接近を記録。おかげで、最接近時の彗星は、1等星よりも明るいマイナス等級にまでなり、彗星のコマは満月の数倍という信じられない大きさになりました。その上、彗星の尾はピーク時には夜空の3分の1を占めるほどにまで長くなり、あまりの雄大さに圧倒されるものがありました。
 しかし、百武彗星はあまりにスピードが速かったため、巨大な姿は数日間しか見られませんでした。作者の観測では、日々めまぐるしく形を変えていく彗星の姿を望遠鏡でのスケッチにて、コマの広がりや2本の尾の様子などを詳細に記録していきました。それを見返してみると、最接近に向け日々確実に成長していく彗星の様子がわかります。最接近の頃は、前日の姿とは明らかに違っているほどの変貌ぶりだったのです。このため、最接近の頃は彗星の一日の移動量も大きく、望遠鏡で見ていると彗星が動いているのがわかるほどでした。また、北極星の近くまでに近づいたので、一晩中沈まない周極星となって優美に尾を棚引かせた姿を一晩中見せてくれました。
 私事ですが、作者は近眼のため、夜空の3分の1を占めたといわれる大変長い尾が見えず、悔しい思いをしました。最接近日の3月25日の夜、肉眼で見ると百武彗星は、ただちぎれ雲のようにボンヤリ星雲状に浮かんでいるようにしか見えなかったので、迫力の無さを感じていました。しかし、翌日の朝刊に掲載された昨夜の彗星の写真には、自分が肉眼で見た彗星の姿とは全く違い、信じられないぐらいに長く伸びた尾が、北斗七星を横切りどこまでも伸びていました。思わず我が目を疑った私でした。その上、長い尾は肉眼でも見えたと聞き、「注意深く見ていれば肉眼で尾が見れたかもしれないのに…」と惜しみました。その後、不運にもずっと曇天が続いたため、最接近日の3月25日を最後に一度も彗星を見ることができず、肉眼で尾を確認できなかったので、悔いが残った私でした。皆さんもご覧になったでしょうか。

観測記
1996年3月25日。この日は実に440年ぶりの超巨大彗星となった正式名「第2百武彗星(1996B2)」彗星(以後、百武彗星と略す)が近地点通過となった。同彗星は地球に約1530万kmという月までのわずか40倍の距離まで大接近したが、猛スピードのため彗星の見える期間がごく短期間に絞られたため、マイナス等級でコマは満月の数倍、しかも尾は夜空の3分の1を占めるという非常に大きい彗星の姿が見られるのはこの日を中心とした2〜3日に限られてきた。

 当日、午前中はどんよりとした雲に覆われていたが、当初の天気予報の「曇り一時雨」は見事に外れ、午後になって晴れ間も見られるようになり、なんとも嬉しいことに天気は回復してきた。日が暮れると再び雲量が多くなってきたが、所々晴れ間があったので、午後10時頃私は天体望遠鏡やカメラなどの観測用具を持ち出し、百武彗星の観測を開始した。このときはまだ北の空の高度は高くなく、また、霞も立ち込めていたので肉眼ではなんとなくボーッと見える程度だった。

 まずは望遠鏡で彗星を導入、雲の隙間からその姿を観察した。つい5時間ほど前に近地点を通過したばかりの百武彗星は、2日前の姿と比べかなり大きくなり、尾もくっきりと確認できた。アイピースの視野いっぱいに広がるコマも水色にぼんやりと輝き、優美な彗星の姿にただ心を引かれる私であった。青白い核の周辺のガスは特に密集度が高く、またそこからはダストの尾とは別に、青白いイオンの尾も確認でき、美しかった。